2016年10月4日火曜日

旅20 イクストランへの旅

『イクストランへの旅』の最終回です。

ここでようやくカルロスは、ドン・ヘナロ(ジェナロ)が、マザテク・インディアンの呪術師であると所属する部族名を明かしています。(旅314)

日付をたぐると1971年5月24日の昼過ぎ、出かけていたヘナロが戻ってきて、三人で昨日の山に向かいます。

ドン・ファンがドン・ヘナロの盟友との出会い体験を話してくれと頼みます。

ドン・ヘナロが若いころ、家に帰る途中、かん木のかげから盟友がでてきたので組み合います。恐ろしかったが、恐怖で首がコチコチに堅くなったので自分の準備ができていることがわかったそうです。

首のあたりがポキンとなると恐ろしいダブルが出てくる話が『力の第二の輪』で出てきます。(こちらにも同じ現象が出ています

戦いにあたっては、怖くてふるえるから舌をかまないように口を閉じていなければならず、適切な姿勢をとるといい、目の前でその格好をしてくれます。

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からだはひざのところでいくぶん曲がり、指をそっと曲げて腕は両側にたらしていた。リラックスしているように見えたが、しっかり地についていた。(体術)(旅347)
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それからドン・ヘナロが急にとびあがりました。そのときカルロスはドン・ヘナロが人間のかたちをしたなにかをつかまえているという印象を持ちます。カルロスの様子を見ていたドン・ファンがカルロスはいまヘナロの盟友を”見た”ぞとヘナロに告げます。

ヘナロが回想を続けます。

盟友と長い時間組み合ってようやく盟友を自分のものにできたことを実感したものの、激しい組合の中、盟友にどこか知らない場所へ運ばれてしまったことがわかりました。

ドン・ヘナロは、イクストランにある自分の家の方向へ向かおうと歩き始めましたが、途中、数多くの人間の”おばけ”にたぶらかされそうになり、その度に、あやういところで逃げ出し先を急ぎます。ヘナロは歩き続けます。

日本の怪談「のっぺらぼう」に似たような話ですね。
自分以外が全部、おばけだという。『ボディスナッチャーズ』ですな。

ドン・ヘナロは、自分は出会った連中を”おばけ”といったがそれらはたしかに人間だ。しかし現実のものではない、と言います。

盟友と出会ってからは、あらゆるものが現実じゃなくなったんだ

それで、最後にはどうなったんだい、ドン・ジェナロ?
最後だと?
つまり、いつ、どうやってイクストランへ着いたのかってことさ」(旅354)

二人は、すぐに大笑いをはじめた。

そうか、それがおまえにとっての結果ってことか」ドン・ファンが言った。「それは、こう言おう。ジェナロの旅には最後の結果なんてものはなかったんだよ。これからもないだろうよ。ジェナロは、今だってイクストランへの途中なんだ!

ぜったいに、おれはイクストランへはたどり着くまいよ」とドン・ヘナロが言います。
だから今もヘナロの現実からみたらカルロスも幽霊だといわれショックをうけます。

カルロスが盟友を手にいれたら、そこへ残してきたものは永遠に失われもとの場所には戻ることができない。愛している人たちも、みんな置き去りにされるだろうといいます。

カルロスがロサンゼルスに戻れるか?と聞いたらそりゃ、どこだって戻れるさとからかわれます。

マンテカ(Manteca)もテメクラ(Temecula)もトゥーソン(Tucson)もな
それにテカテ(Tecate)もだ
それにピエズラース・ネグラース(Piedras Negras)にトランクウィリタス(Tranquitas)もな

二人がふざけてリストアップした町も念のため地図にプロットしてみました。ツーソン以外は茶色にしてあります。ちなみにトランクウィリタス(Tranquitas)だけはなぜかGoogle Mapに入力すると「サンパウロ」という名前の町が表示されます。




ドン・ファンはカルロスに詩人ファン・ラモン・ヘメネスの『決定的な旅』という詩を詠んでくれと頼まれ、それがヘナロが話した気持ちだといいます。

抄訳を済ませてある日本未公開の文献『The Teaching of Don Carlos』という記事によるとカルロスはUCLAに入る前に通っていたロサンゼルス・コミュニティ・カレッジ時代、詩作のコンテストで入賞するくらい詩に造詣があります。

創作説に立ちますと実は詩が先にあって後から「イクストランへの旅」のエピソードを考えたのかもしれませんね。とはいえいい話です。

ドン・ファンは詩が大好きで、よくカルロスに詩の朗読をねだる場面が登場しますが、『ドン・ファンの教え』、『分離したリアリティ』にはありません。

前回も書きましたが、この巻から、ドン・ファンは”トリックスター”といったり詩が好きになったりインテリ度が増している気がするのはあたしだけでしょうか?
次巻の『力の話』では、ドン・ファンはスーツ着て登場しちゃうし。

ジェナロは自分の情熱をイクストランに置いてきた。家庭も、家族も、大切なものもな。それで、今は、自分の感覚のなかを歩きまわっとるんだ。奴の言うとおり、いつか、イクストランの一歩前まではたどり着けるだろう。わしら、みんなそうなのさ」(旅358)

同感です。
・・・あたしはドン・ファンを信じてるのかどっちなのか?

カルロスを残して二人は立ち去ります。
野原の先にある暗い谷で盟友がカルロスを待っている。盟友を自分のものにするのはいまでもいいし先でもいいといわれ、カルロスは二人を見送ったあとその場を去ります。

本はここで終わってますが、この日に至ってあたしは遂に知りました。
カルロスは盟友は手に入れていませんし、見てもいません。

下の地図は、ドン・ヘナロが決して戻れない町、イクストランです。オアハカのそばですね。

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