2016年10月8日土曜日

『呪術師の飛翔』(3)

ここから数回にわたり、本文の内容についていくつか記しておきます。
読み物としてはこれまで以上に羅列的で面白味にかけると思いますがご容赦ください。

また、タイシャが学んだ呪術の修行内容やマジカルパスについては割愛します。
ご興味のある方は、本編をご覧ください。

●カスタネダによる序文

序文は、フロリンダの『魔女の夢』ほどはあっさりしていませんが、シンプルで下記のような内容す。
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三人の女性グループ(三人の魔女)については一切口にしないという暗黙の了解があったので20年間、オープンしていなかった。
呪術師には”夢見の人”と”忍び寄りの人”の2タイプにわかれている。
前者は、夢をコントロールすることによって、高められた意識に入り込む才能を生まれつきもっている呪術師を指し、後者は生まれつき現実対処能力に恵まれ、自らの行為を操作、コントロールすることによって、高められた意識に入り込める呪術師を指す。
この本の著者タイシャは、後者のグループに属している。
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●1見知らぬ女性

タイシャは、南アリゾナのグラン砂漠でスケッチをしていたとき、クララという女性(実は呪術師)に出会います。クララは30歳から50歳の間、5フィート9くらいの背の高さの女性です。年齢幅ありすぎますね。

なんだかハナから興ざめかもしれませんが、Amy Wallaceによると、フロリンダ・ドナーもタイシャ・エイブラーも実は、後年、当人の口からドン・ファンには会ったことがないと聞いたと書いていますので『呪術師の飛翔』は、全編「創作」の可能性があります。カスタネダの「ドン・ファン・シリーズ」ほどには超常的な出来事がおきませんので創作だとしてもまぁ害は少ないかもしれません。

その創作の中で触れられている「事実関係」を掘り下げてもあまり意味がないですが、興味本位ということでご容赦ください。

まず、冒頭の「グラン砂漠」ですが、さくっと調べたところ南アリゾナではみあたらずメキシコのソノラ州の中にある砂漠のようです。ま、アリゾナの国境と接したエリアですから現地では南アリゾナって呼んでいるのかもしれません。

あたしは、List of North American deserts(北アメリカの砂漠一覧)から、Gran Desierto de Altar, Sonora, Mexicoというのを見つけました。



クララは「ソノイタにあるアメリカ国境の検問所に行くところなの」といいます。
こんどはソノイタの場所を確認しましょう。おなじみのノガレスと近いですね。


Sonoita, Sonora, Mexico


タイシャは生まれたときはタイシャという名前だったそうですが、アメリカ人らしくないというので途中母にちなんでマルタと呼ばれたのですが、それも気に食わないのでマリーという名前にしていた、と言っています。彼女の名前については、Amyの本の中でも詳しく触れられています。(彼女の背景についてはこちら

タイシャは子供のころドイツにすんでいました。父はアメリカ人、母はハンガリー人でオーストリアの古い家の出。第二次世界大戦後、南アフリカで暮らしていました。

一方、クララは、一人っ子。両親は亡くなっていて、父親の家族はオアハカ出身のメキシコ人。母はドイツ系アメリカ人。ソノラとフェニックスの両方で半々の割合で暮らしています。
彼女のソノラの家はナボホア市の近くにあると言っています。

ナボホア

ナボホアは、あたしが「くさい」と言っているトリムの町と非常に近いです。ナボホアは、ドン・ファン・シリーズでは一度も出ていない地名です、それもかえって怪しい。

ここもドン・ファンの家がある町候補としては結構いけてるのではないでしょうか?

あたしは以前、このクララをビッグ・フロリンダとみなしていましたが、間違っていました。
タイシャは、カルロスをナワールとする次の世代の一員でして、フロリンダ・ドナーとキャロル・ティッグスの三人が「魔女」と呼ばれるグループになります。

クララが古い世代というのは間違いないのですが、最終章の「呪術師の飛翔」(飛翔404)には、本著後半に登場するタイシャの教師ネリダがフロリンダという女性と瓜二つだという記述があります。

ネリダは、かなり高齢の女性として描かれていますので、そのネリダと瓜二つのフロリンダこそがビッグ・フロリンダであり、クララではないことがわかります。

また、クララは前述のように前のナワール(ドン・ファン)世代の一員ですので、カルロスのグループに属する『魔女の夢』の著者、フロリンダ・ドナーとも別人であることがわかります。

この本は、前述のようにカスタネダの著作にもまして大部分が創作くさい(私見です)ですし、クララもヤング・フロリンダも空手の使い手であることから、クララのモデルがフロリンダ・ドナーである可能性はあるかもしれません。

しかし、この本では、クララは「父親の家族はオアハカ出身のメキシコ人。母はドイツ系アメリカ人」となっています。一方、フロリンダ・ドナーは、自著『魔女の夢』で自分でヴェネズエラ出身と書いていますので、仮にどちらかが嘘の経歴だとしてもカスタネダ・スクールとしてはいずれかに整合性をとるはずです。

したがってクララはカスタネダ・ワールドの既存の登場人物なのか、まったくの異なるキャラクターなのかは決めこめず、ここまでとします。

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