2016年9月8日木曜日

旅4 死はアドバイザーである

1961年1月25日の日誌です。

カルロスは、ドン・ファンに友達関係を切り離せと言われます。例の「履歴を消す」話ですな。

この後、ドン・ファンが奇妙な目つきでカルロスを見つめます。
ドン・ファンの目が鷹の目に見え、しまいにはドン・ファンの姿がタカに見えます。
そのことをカルロスが告げると、ドン・ファンは、「鳥さ、すごくおかしな鳥だ」といいます。(旅54)

カルロスは少年のころ、よくタカを狩ったそうです。カルロスの祖父はレグホンの養鶏場をもっていたので少年時代、ニワトリを襲うタカを退治する役目を仰せつかっていたのだそうです。

もちろんドン・ファンがそんなことを知るわけないですが、いきなり「妙なタカ」のことを話せといいだします。

そして突然「白いタカ」のことを思い出します。とても賢いタカでカルロスはきりきりまいさせられますが、ある日今なら撃てるチャンスが訪れますがカルロスは引き金を引きませんでした。(旅59)

シートン動物記の『狼王ロボ』と映画『ディアハンター』を思い出すエピソードです。


ドン・ファンは、白いタカを撃たなかったのは、おまえの死がちょっと警告をあたえたのさと言います。

興が乗ってきたところで水をさすようですが、このエピソードは「ボタン鼻の少年」のエピソードと同じく、おそらく作り話です。
カルロスの両親が若かったために祖父母の養鶏をしている農場に6歳まで預けられたというのは彼がタイム誌に語った偽の履歴です。

ところで「ボタン鼻の少年」のエピソードは、『分離したリアリティ』で先に読んでいる話ですが、登場の時間軸でいいますと、この白いタカが61年。「子供のころの約束」の方は69年4月のエピソードです。
『分離したリアリティ』と『イクストランへの旅』の出版の時期は三年ほどなのでまぁつじつまを合わせやすいとは思いますが、とにかくカルロスの話の整合性の取り方は見事です。

ドン・ファンは言います。
「死はわしらの永遠の仲間だ」
「それはいつでもわしらの左側、腕をのばせばとどくようなところにいるんだ。おまえが白タカを見はっているとき、それはおまえを見はっていただんだ。それが耳元でささやいたとき、今日みたいに、その寒気を感じたのさ。それはいままでずっとおまえを見はっていたし、おまえをぽんとたたく日までずっとそうだろう」(旅61)

死はこのシリーズの核心となるテーマですね。少し前にアップした「死とのカーチェイス」のエピソードは1968年6月10日ですので、これまた出版順序とエピソードの登場が入れ替わっていて不思議な感じがします。

「がまんできないときは」
「左を向いて自分の死にアドバイスを求めるんだ。(中略、そうすれば)山ほどのとるに足らんことなどすぐに切り捨てられる」

真理ですな。

追記)日本語版のこの章で「タカ」となっている原文はfalconです。
著者のカスタネダが厳密に鳥の種別を区別していたかはわかりませんが、一応「ハヤブサ」が正しいかもしれません。
ハヤブサとタカ(ワシ)は生物の分類で違うそうで前者が「ハヤブサ目ハヤブサ科」、後者が「タカ目」だそうです。

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