2016年9月10日土曜日

旅6 狩人になる(1)

1961年6月23日の日誌です。

カルロスがペヨーテのことを教えてくれとせがんだ際、ドン・ファンがはじめてメスカリトという言葉を使ったそうです。

この日は、実は『教え』で、ドン・ファンの家で自分の最良の場所を探させられた日です。

『教え』でこのエピソードが記されたのは6月25日の日曜日の「日誌」でして、そこに「金曜日」の事件として書いてあったので「最良の場所」の日は23日のことだろうとあたしは推測して自分の「ドン・ファン年表」に記してありました。

この『旅』に至って、その推測が正しかったこと(大したことではありませんが)がわかりました。
虚構だとしてもこの時間的整合性のとり方は感心します。

そして翌日の日誌(1961年6月24日)ですが、二人が荒野散歩に出ますと荒れ野で「良い」場所と「悪い」場所を見つけるのは重要だとドン・ファンに言われます。

この本(『旅』)の1961年6月23日の日誌部分では、一切、「良い場所」、「悪い場所」について言及していないのに『教え』で書かれた「最良の場所」とシームレスに話がつながっているわけです。
こうして熟読する前は適当に流していた内容ですが、あらためて見事だと思います。

このあたりは本当に「インフォーマント(ドン・ファン相当の人間)」が存在し実際に「記録」をとっていたのではないかと思います。

ドン・ファンは、「カラスが予兆を示したとき」カルロスが怒りっぽかったのはあそこが悪い場所だったからで、カラスが悪い場所を教えてくれたのだと言います。
この話は、『旅』の42ページ、1960年12月28日のエピソードのことを言っています。
(このブログでは上記のリンク先「旅3 自尊心をなくす」にさらっと書いてあります。)

「悪い場所」に限らず、カルロスはシリーズを通して結構、師匠のドン・ファンに対してすぐ感情的になって怒りを表すことが多いようです。「ドン・ファンシリーズ」が大ヒットしていた時に、あるジャーナリストがなんでドン・ファンは、こんなバカ(カルロス)を弟子にしないで自分に声をかけてくれなかったのかと嘆いたといいますが同感です。(Amy 7。Adam Blockのエピソード)

あたし自身があまり怒りをあらわさない質なので、ラ・カタリーナの事件以外ではカルロスの怒りの場面があまりピンとこないなと思っていました。純朴な入門者のようなふるまいをしていながら、ちょっとした議論で簡単に怒りだします。

今回、Amy Wallaceの本でカルロス・カスタネダの実像を知るにいたり彼が非常に怒りっぽく、そして相手をコントロールする際に怒りを利用することを知りました。(エイミーの本は途中です)

この『旅』の20ページには、カルロスがかなり強引な性格であることがわかるくだりがあります。以前は完全にスルーしていました。ドン・ファンにインフォーマントになってもらおうと交渉した際、いとも簡単に負かされてしまったという話の流れです。
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わたしが人類学の研究を始め、こうしてドン・ファンに会ったときには、すでに『取り入る』術をすっかり心得ていたのだ。(中略)なにかを断られるといつもうまくまるめこんだり、ゆずったり、議論したり、怒ったりした。そしてどれもうまくいかないと、なきごとや不平を言ったりしたものだった。
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ところが、ドン・ファンには通じなかった、と。
エイミーの本を読んだいまこのカルロスの性格描写の意味がはっきりわかりました。正直に書いてあったのですね。

ところでカルロスの砂漠生活の中で、虫に煩わされる描写がないのは不自然だという指摘があります。デミルの指摘だと思いますが、いまその個所を見つかられないのでペンディングとしておきますが、下記のような記述があります。(pending)
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その日は暖かく、ハエがたくさんわたしのまわりをとびまわってとてもうるさかったが、ドン・ファンをうるさがらせている様子はなかった。彼がただ気にせずにいるだけかな、とも思ったが、彼の顔にはぜんぜんとまっていないことがわかった。(旅82)
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そして、ドン・ファンが「良い場所」を見つける方法を伝授します。

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休むのにふさわしい場所を見つけるためには、ただ目を一方の端から他方へ動かせばいいのだ。(旅82)(体術)
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両目で、少しずつ、同じ像を別々に見るようにしてゆくというものであった。見ている像を変えるということをしないので、世界を二重に知覚することになる。この二重の知覚は、ドン・ファンによれば、ふつうでは気づくことのない周囲の変化を判断するチャンスを与えてくれるのだ。(体術)
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その目をつかって良い場所を探してみろと言われ、たまたま坐った場所が「悪い場所」だったのでドン・ファンが猛スピードでカルロスをその場所からひきずる場面があります。
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そのとき、彼が全力をふりしぼったということが見てとれた。彼はわたしの背中を軽くたたいて、わたしが選んだのは悪い場所で、すわっていた場所がいまにもわたしの感覚を支配してしまいそうなのを見て、大急ぎで助けだしたのだ、と言った。(旅85)
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背中をたたいていますな。

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ものを二つに見ることを学んだら、次は、二つの像のあいだの部分い注意を集中させなければいかん。その部分ではだな、目をみはるような変化が起こるだろうよ。(旅86)(体術)
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試した人、世界にどれくらいいるのでしょうか。

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