2016年12月2日金曜日

環(2) まえがき~ 1 ドニャ・ソルダートの変身(1)

■まえがき

前期作品群のクライマックス『力の話』の最後で、シエラ=マドレ山脈の西斜面にある平らで荒れた山頂から深淵に飛び込んだあと、こうして続編を書いているカルロス・カスタネダは、自分に一体何が起きたのか? その不思議にとらわれています。
幻覚のように思えたのに、確かに谷底へ飛び込んだような気がしています。

そして、ドン・ファンとドン・ヘナロという二人の師匠が「もはや手のとどかないところにいる」という寂寥感。(環9)

その秘密を探るためにカルロスは、再び、ドン・ヘナロの弟子たちに会いにメキシコに向かいました。

■1 ドニャ・ソルダート(Dona Soledad)の変身

カルロスは、自分が本当に崖から飛び降りたのか確認するために、パブリトとネストールに会いに行くことにしました。

時期については記していませんが、(パブリトたちが実在の人物だったとすると)この本は77年出版ですから執筆が半年前として73年から76年という感じでしょうか。
ドン・ファンが亡くなった(あるいは会わなくなった)のが上記の時期ですので辻褄はあっています。

彼らは家にいないような気がしたので町に行くことにします。
ドン・ファンに会えるかもしれないと思いながら市場などをぶらぶらしています。
いまだに、ドン・ファンが生きているあるいは会ってくれると思っているわけです。

でも、これまではこんな場合にひょこっと現れるドン・ファンに会えません。
そして「彼は行ってしまったのだ」と嘆きます。(環11)

再会をついに諦めて、またパブリートの家に行くことにします。
彼が以前会っていた時、ネストールは一人暮らしをしていました。
パブリトは母親と四人の姉妹と暮らしていたので人気の多いパブリトの家を選んだわけです。

しかし、迎えに出た彼らの母親のドニャ・ソルダートの様子が何かおかしいのに気づきます。
50代後半以上だったはずなのに、二十歳も若く見える上、カルロスを誘惑しています。

二人の会話です。
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「ヘナロはもう帰ってこないよ」
「それじゃ、ドン・ファンは?」
「ナワールも行ってしまった」
「どこへ?」
「知らないのかい?」

わたしは、二年前にふたりともわたしに別れを言ったことを、わたしの知っていることといえばそのときに彼らがどこかへ出発したことだけだと言った。

「もう戻ってこないだろうってこともたしかさ」
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いつまで経ってもカルロスだけが状況を知らないようです。

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