2016年10月9日日曜日

『呪術師の飛翔』(4)

●2 奇妙な約束

クララの家に誘われたタイシャを伴って二人は途中、グアイマス市に寄ります。



食堂で二人にいいよってきた男をきつい調子で追い払うエピソードでかなりなフェミニストだということが知れます。

時代性もあってAmy Wallaceの本に登場するフロリンダ・ドナーはじめカスタネダ・スクールの女性たちも極端なフェミニズムに傾倒しています。

タイシャが招かれた、クララの家は左右、二つの領域に分かれていてタイシャはクララと右側の領域で暮らします。ここには二世帯(グループ)が住んでいて8人ずつで16人が暮らしているそうです。

● 4 反復(recapitulation)の技法

この本は、この章に限らずマジカルパスという太極拳によく似た体術に関する記述に多くさかれていますが、実践できるほどは詳しく書かれていません。

興味のある方は、カスタネダ著『呪術の実践』を手に入れるといいかもしれません。ビデオも出ているそうですが今は手に入るかどうかわかりません。(Youtubeにも動画がいくつかアップされています)

さっそく「ダブル」という存在の説明があります。(飛翔68)

私たちの身体は、精神もしくは自我を宿す肉体と、その分身で、私たちの基本エネルギーの器であるダブルとからなっているそうです。
身体を分離する話については、「ドン・ファン」シリーズでは、『力の話』から登場し、『力の第二の輪』では、非常に危険な存在として登場します。

ドン・ファンが去った時期は、この『力の話』(1974年)から『力の第二の輪』(1977年)が発行された時期とオーバーラップしています。
『力の話』の「原稿」は当然のことながら発行年より前に書かれていますので、少なくとも1973年以前に執筆されたものです。

先にあたしは、Amy Wallaceの著作によりドン・ファンが亡くなったのは1976年という仮説を立てました。
ドン・ファンが亡くなるまでのプロセスを想定しますと、上記の二冊がカスタネダの前期・後期の過渡期の作品と位置付けられると思います。

前期が、実在のドン・ファンの言葉や実体験を織り交ぜた作品群。
後期は、過去のドン・ファンを拡張してカスタネダ・スクールを設立・運用するため、あるいは設立する契機となった作品群。

このスクールは、Cleargreen(出版社、カルロス・カスタネダの"Tensegrity"というブランドでセミナーやワークショップを運営する団体)という名前でCleargreenのホームページによると設立は、1995年となっています。

話をシンプルにカスタネダ「教」としてもよかったのですが、カルトっぽい音感を与えすぎるなと思いますので「スクール」としました。

Amy Wallaceの本によると、もうカルトと呼んで支障ないくらいの異常さですが、まだ読了していませんので判断は控えることにします。

この『飛翔』に登場する「ダブル」や「マジカルパス」そして前期作品には語られることのなかったフェミニズムの香りが濃い「性」に関する記述は、カスタネダのオリジナルとみます。

タイシャの著作は、1992年。こうしたカスタネダの新理論を補強するために出版されたものとみるのはうがちすぎでしょうか?(あまり補強にはなってないと思いますが)

『飛翔』の70ページから、クララによる呼吸法についての説明がはじまります。

カスタネダの「ドン・ファン・シリーズ」では、このテの伝統文化に共通の呼吸法についての話がまったくありません。それは、かねがね不思議だなぁと思っていたのですが、カスタネダもテンセグリティを開発するにあたり含めたのではないでしょうか?

クララは、幼児の呼吸法(飛翔110)や力の呼吸(飛翔119)やら次から次へと繰り出します。

でもね。月並みな呼吸法とか俗な体術がないのがドン・ファンのいいところだったのかもですよ。

呼吸法を習うと、クララはタイシャに、これまで知り合った人々全員と、これまで感じたこと全てを思い出しリスト化する「反復」(recaputilation)という作業をするように言われます。

「反復」も後期作品に登場する考え方で、カスタネダの遺作『無限の本質』も、「反復」の成果物という話になっています。

「世界を止め」られるかどうかは別にして、なんだか奥深い作業だと思います。
特に『無限の本質』を読むとその気持ちが強くなります。

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