2016年9月29日木曜日

旅15 しないこと

1962年4月11日。「力のあしどり」の訓練の際まとわりつかれた謎の「実体(entities)」の影響から逃れるべく二人は、カルロスの「お気に入りの場所」に行きからだを休めます。
陽が沈む前に回復して、それから「溶岩の山」へ行くと言われます。

1962年4月12日。溶岩山(the lava mountains)のふもとについて一泊します。
「ようがんやま」という言い方がホビットの「はなれ山」みたいでいい響きです。

ドン・ファンがこっそりと木にかけた黄色い布が山の一部のように見える幻想を体験します。

1962年4月13日。溶岩山の峡谷。山々を眺めているうちに反射光の影響で峡谷が光でいっぱいになる光景に心を奪われます。
ドン・ファンは、ここでカルロスに「しないこと」を教えるために来たと言います。

『旅261』から「しないこと」に関する濃密な説明がはじまります。引用すると長いので簡単に解説します。

”すること”というのは人が規定の知覚で世界を認識している方法で、”しないこと”により知覚の自由を手に入れることができる。そして戦士の資格を手に入れることができる」というような話です。

練習で小石が落としている影を見て、ニカワに見えたと報告すると上出来だと言われます。(旅264)同様に少し後の記述でも大きな石の影をつかった説明があります。(旅270)
ドン・ファンが戦士が自分のからだから病とか不快感といったものを出してしまいたいときの動作を教えてくれました。(旅266)
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彼はわたしを横にし、右手をとってひじのところで曲げた。それから、彼はわたしの手のひらが前を向くようにまわし、指を曲げた。それで、わたしの手はドアのとってをつかんでいるような格好になった。それから彼は、ちょうど車についているレバーを押したり引いたりするのに似たように、わたしの手を輪を描くように前後に動かしはじめた。(体術)
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溶岩山に出発する前に、ドン・ファンがカルロスの場所で作ってくれた「ひものベッド」も”ひも(string)”ですが、人間も身体を物に結び付けている無数のひもがあるのだと言われます。
ドン・ヘナロが滝渡り」した時につかったのもこの”ひも”ですね。

「しないこと」の練習は、だれにとっても動いている手から出てくるひもを感じる手助けになるそうです。

「知者は耐久性のあるひもを作るのに、知者はからだの別なところを使うんだ」「知者が作るひものうち一番耐久性のあるやつは、からだのまんなかから出てくるやつだ」(旅267)

ここまでうっかり記していませんでしたが、随所にドン・ファンが「鳥のような目」をする記述があります。
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彼はひと息つき、好奇の目でわたしをせんさくした。そしてまゆを上げて目を大きく見開き、またたきした。それは、またたいている鳥のような目立った。(旅268)(体術)
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この目つきは例の焦点をさだめない目をするとき、その人物を外から見るとそんな目つきをしているのかもしれません。
あたしの家人は瞬時に立体視ができるのですが、どうやるのか尋ねると「まばたく」のだと言っています。

ドン・ファンはカルロスがその日、溶岩山に向かうにあたり、影のひとつに後をついてこられたと語ります。(旅269)他の箇所でこれを盟友と言っています。(旅274)

ようするにあたしたちの通常の知覚では存在を確かめられない「生命」はみな盟友であり守護者であり門番であり、それらをひっくるめて非有機的存在と称しているのだと思います。

ドン・ファンに指定されて探した細長い石を二つ使って影を見る練習をします。
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ほとんどあっという間に、目を動かすとその二つの影がひとつに混じり合うように見えたのだ。わたしは、二つの像をひとつに集めるように見ないことで信じられぬほどの深みとある種の透明感のあるひとつの影が得られることに気づいた。
(中略)
わたしは、あまりにも不安定なその像をうしなってしまいそうで、またたきもしたくなかった。(中略)
そのときに、それがまるで、それまで一度も見たことのないような世界を計りしれぬ高さから見おろしているような感じなのに気づいた。(旅272)
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上記の引用の最後の部分「それまで一度も見たことのないような世界を計りしれぬ高さから見おろしているような感じ」は、まさに「立体視」をしているときの感覚そのものです。別の世界が目の前に広がっているような不思議な奥く行き。

つづいて「夢見の訓練」と「しないこと」の関係についての講義が続きます。とにかくこの章は長いです。
そしてドン・ファンは、カルロスが自分を堕落していると感じていることに対して、しばらくの間、自分は完全にその逆だと”すること”をしてみることをアドバイスします。

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