2016年7月24日日曜日

教え10 カラスへの変身

この章は、この本のメイン・イベント。
ついにカルロスは「煙」を吸ってカラスに変身します。

はじめは普通に喫煙していたのですが、カルロスがつい眠ってしまうのでドン・ファンは(眠り込まないように)鳥に変身させるように方針を変えたように書いてあります。

「きざみ」はパイプに詰めて、火をつけて吸います。火をつけるために炭を使うそうですが、その炭をつかむためにカルロスがせんたくばさみを改造して作った炭つかみを見て噴き出す場面があります。
こうした小ネタは、本当にリアルですよね。

本文の日付の様子からいいますとカルロスは、二回カラスに変身します。
最初は、1965年2月7日の日記。変身するまでの様子が書いてありますが、その日はどうやらそこまでです。

まばたきをするたびに体がカラスに変わっていきます。
顎がカラスの足に。尾は首から出てきて床をする感じをつかめ、と言われます。
翼は(少しつらいけど)頬骨から出てきます。
気色悪いですな。
カラスに変身した後は、カラスのように物を見る練習をさせられます。

ドン・ファンがカラスへの変身を好むのかについて語っている箇所があります。
この箇所はあたしが特に印象に残った場面でして、20代に初めて読んだとき、えらい感心しました。水元公園で害鳥として大型のケージにとらえられているカラスを見てうっかり呪術師が捕まってたら大変だなとつい心配してしまいます。

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わしがカラスになるのを学んだのは、その鳥が一番効果的だから。(中略)人間もカラスを悩ますことはできん、ここが大事な点だ。人間なら誰だって大鷲や特別な鷲や他のどんな大きな普通でない鳥だって見分けがつくだろ、だがカラスを気にとめる者がいるか?カラスなら安全だ。(教え209)
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1965年3月28日の日記は、いきなり変身セッション後の話になります。

変身したとは書いてないのですが、ドン・ファンに放り投げられ、飛んで行って他の銀色の鳥三羽と出合って遊んだ、とあるので、読者はあぁ変身したのだなぁとわかる展開です。この不親切な書き方は、ドン・ファンシリーズ全体がそんな感じでわざとなのか?はたまた書き手としての腕の悪さなのか?
はたまた、そこがジャーナル(日記)を本にした雰囲気なのでそれでいいのか?
いろいろ考えます。

セッションから目覚めるまで三日かかったいうのですから大層なトリップです。
目が覚めると用水路の底に水につかって仰向けになっていたのは、ドン・ファンが目覚めさせるために寝かせたからですが、カルロスの一連の体験では頭から水をかけられたり灌漑用水路に浸けられたりして復調させられることが頻繁にあります。

カラスになったカルロス(まぎらわしい)が出会った銀色の鳥たちは、カラスだったそうです。
ドン・ファンいわく「カラスの黒い羽は本当は銀色なのだ。カラスが見ると銀色に見える。白いハトはピンクか青。カモメは黄色に見える」

カルロスが出会ったカラスたちは、「運命の密使」であり、彼らが飛んでいく方向が問題なのだそうです。
カルロスはカラスたちが「自分たちは北から来て南へ行くところだ。今度会うときも同じ方向からやって来るだろう」と言ったことを必死に思い出します。

またまた方角登場ですが、「運命の密使」たちとの出会いは会った時間帯も意味があるそうです。出会ったのが夕方であることをなんとか思い出したカルロスは、ドン・ファンに死んだらカラスに生まれ変わると告げられます。

ここで登場した「運命の密使」という用語は、その後、まったく登場しません。
ドン・ファンシリーズは、このテの意味深そうだけどその場限りの用語なり概念が多いような印象を受けます。

適当に場当たりに作っているからか?
誰が?

カルロスの場合は、例の捏造説に一票入ります。

適当なことを言ってるのがドン・ファンの場合、『時の輪』の『ドン・ファンの教え』の注釈部分での告白(時 P025)にあるとおり、カルロスがイメージしているシャーマンをそれらしく演じるために仕組んだ虚構の数々のひとつだったのかもしれません。

カルロスが世界の姿を見ることができるようになるための方便としてのシャーマニズムだったとも言えます。いつもながら、そうだったらいいなと思います。

「盟友」という初期作品群で大きな比重を占める存在も後半になるとあまり登場しなくなってきます。その後、後半戦では「非有機的な生命体」についての説明が増えてきますが、ある時、突然「非有機的存在」と「盟友」がイコールであるかのような記述があって(技法P72)、聞いてないよと思いました。

一度限りしか登場しないシャーマン用語が多いとけなしたそばから違うことを書きますが、後の巻でシャーマンの能力として最も重要な「見る」(知覚)ことについての言及がここで最初に登場します。

煙の力についてのドン・ファンの言葉です。
「煙は力を求める者のためにあるんじゃないんだ。見ることを本当に望む者のためにだけにあるんだ」

自分が他の生き物に変身するような体験(幻覚)は相当ショッキングなことなのでしょう。1965年4月10日の日記では、自分がクスリの摂取のためにおかしくなってきているのではないかという不安にかられはじめます。

この『ドン・ファンの教え』に記載されている摂取の回数はそれほどではないですが、『夢見の技法』(技法P53)では、「当時、大量の幻覚誘発性植物を取らされていた」と書いています。

煙で体が溶ける体験と同様、今回も本当にカラスに変身して飛んだのか、傍から見たらどうなのか?とカルロスはとことんこだわります。

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