2011年4月16日土曜日

scent of the past ※

男は、当時東京の郊外で一人暮らしをしていた。
つきあっていた女性がいて彼女は都内に住まいがあった。

男の職場は都内だったので仕事帰りに、女性の家を訪れることが多かった。
彼女のマンション組合のルールでは、ゴミは「まとめ出し」だった。
つまりゴミは、バケツにたまってからでないと一階にあるゴミ置き場に出せないのだった。

一方、男が暮らしていたマンションは近郊だったのでゴミ処理場もパワフルだったからだろう、小袋に入れたゴミを毎日出しても大丈夫だった。
男は彼女には言わなかったが女性の部屋に上がるたびに、ためている、というかためておかなければならないゴミの臭気が気になっていた。

彼女ももちろん臭気には気を遣っていたのだが、そこで暮らしている本人にはわからなくなっていてもゲストには気になるものだ。
時が流れ、そんな二人にも別れが訪れた。

数年後、男は都内の小さなマンションに引っ越した。
暮らしはじめて一カ月。
残業を終えて帰宅。誰も待ってくれていないドアを開けたらゴミの臭気を感じた。

ゴミの臭いなのに、懐かしくて泣けてきたそうな。

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scent of the past <解題>

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